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「城泊」からはじめるサステナブルな地域づくり 〜「大洲城キャッスルステイ」取材後記〜

今回が愛媛県大洲市における城泊の取り組み紹介記事の最終回です。

第1回はこちら。

第2回はこちら。


取材・文/萩原さちこ



イメージを覆す包括的プロジェクト

「1泊100万円で天守に泊まれる!」。昨年、インパクトのあるニュースがメディアを騒がせたのは記憶に新しいところです。タイトルのキャッチーさゆえ「文化財の活用事例」より「商業的な企画」なイメージを持った方が多かったのではないでしょうか。私もそのひとりでした。

ところが今回の取材で、その印象は一変しました。決して商業的思考のイベントではなく、文化財や地域資源の維持・活用、地域活性化を想定した包括的かつ持続的なプロジェクト。新たな価値観ともいえそうなストラクチャーの創成には瞠目するものがあり、城の保存・継承、活用を考える上でも有意義かつ刺激的でした。


全国の城が直面する「活用」の壁

昨今、全国の城では「活用」が課題となっています。しかし、保存・整備すらままならない例が多いのも実状です。城の多くは国や地方自治体の所有・管轄であるため投じられる公的資金には限界があり、また活用しようにもスキルがありません。近年は官民連携を目指して指定管理者制度が導入されているものの、消費者目線で率直にいえば短絡的な商業的発想も目立ちます。

<まち並み消滅危機から起死回生の一手。〜「城泊」を中心としたまちづくり、成功の秘訣とは〜 >でも触れたように、その根底には「文化財はそのまま保存するもの」という概念の根強さもあるのでしょう。利益性のある発想は敬遠されがちで、既存の体制や方法で新事業を進めるのは高難度。たとえ画期的なアイディアがあっても軌道に乗せにくいのだと思います。


「連動」「連携」で停滞状態を打開できるか

城をはじめ、史跡や文化財を単体で維持していくのはもはや困難。企業や団体と連携し、地域の歴史的資産を連動させて「城を高付加価値化する」という発想は、保存・維持・継承の打開策のひとつになるのではないでしょうか。そしてそれを実現するとき、観光という観点は救いの一手になるのかもしれません。

大きな課題は、観光の要素をいかに取り入れるかです。文化財や史跡としての価値をないがしろにすれば活用ではなく利用や悪用、単なる土地活用になりかねませんが、地域に残る原石が化石になるのを回避するためには受容されるコンテンツとして磨くことも必要。観光というエッセンスを与えることで、輝きを取り戻せることもあると感じました。


「利用」ではなく「活用」にするために

極端にいえば、城内に歴史的根拠のない建物を建てることも、城の価値や本質を未来に伝える手段になるのならば「活用」になるのでしょう。もちろん現状維持は最優先ですが、社会の変化に応じて保存・維持・継承の方法も再考せねばなりません。肝心なのは、「何を残し、何を伝えるべきなのか」の優先順位を正しくつけること。まずはそれを見極める力が問われそうです。

もっとも難しく、しかし重要なのはやはり「何のために文化財を活用するのか」という目的と定義を明確にすること。「大洲城キャッスルステイ」ではその部分が実践されているからこそ、「保全」と「活用」を共存させるというフェーズに入っていけるのでしょう。


「城泊」事業への期待

名もなき戦国時代の城であっても、地域にとってのアイデンティティであることを日頃から痛感します。しかし愛着や誇りがあるからといって深く理解しているとは限らず、維持・保存・継承の意識が浸透しているわけでもありません。本質や価値の認知こそ、維持・保存・継承にもっとも必要なことと感じています。

城のイベントやシンポジウムに登壇すると、「他県から人が訪れるほどの城だったと知りうれしい」「シンポジウムで語られるほどの歴史が地域にあったとわかり誇らしい」といった地域の方の声を耳にします。ここに一番の意義があると感じます。観光コンテンツを通して、地域資源が見直されるきっかけ、気づきや誇りを届けることもきっとできるはずです。

城は社会の縮図であり、城を中心に町が発展し、文化が育まれ、現代社会が成り立ちます。地域の数だけ歴史があり、城が持つ特性も異なります。目指す活用の方向性もそれを満たす条件もそれぞれに違い、その意味では「大洲城キャッスルステイ」は完全なモデルケースにはなりえません。しかし同じ概念を根幹に持つ取り組みが広がり新たな価値観が生まれれば、向上と発展があるはずです。

文化財や史跡の価値を伝えなければならない相手は、国内外の観光客ではなく地域住民。「城泊」事業が全国に広がること、その取り組みの根源が保存・維持・継承にあることを切に願います。