まち並み消滅危機から起死回生の一手。〜「城泊」を中心としたまちづくり、成功の秘訣とは〜
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まち並み消滅危機から起死回生の一手。〜「城泊」を中心としたまちづくり、成功の秘訣とは〜

今回は、愛媛県大洲市における城泊の取り組みを紹介する連載記事の第2弾です。

第1弾をお読みでない方は、こちらを先にお読みください。


取材・文/萩原さちこ


文化財観光施設を活用した歴史体験「大洲城キャッスルステイ」は、どのように実現したのでしょうか。経緯やコンセプト、課題や展望などを、一般社団法人キタ・マネジメント 事務局長次長の村中元さんに伺いました。

村中さんは大洲市役所で文化財保全や大洲城復元の担当を経て観光まちづくりに携わり、観光地域づくり法人(DMO)の設立や文化財等の歴史的資源の活用事業に従事。現在は2018年に設立された一般社団法人キタ・マネジメントの事務局長次長として、持続的な地域発展のシステムづくりに奔走しています。

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一般社団法人キタ・マネジメントの事務局長次長である村中元さん
(提供:一般社団法人キタ・マネジメント)


まち並み消滅や人口減少に直面、歴史的資源を活かす起死回生の一手

――文化財文化財観光施設を活用した歴史体験「大洲城キャッスルステイ」の目的は、大洲城の文化財としての価値と魅力を高めること、そして大洲城の認知度を向上すること。しかし発端は、城下町のまち並み保全だったそうですね。

キタ・マネジメント 村中さん:
大洲には蔵や屋敷など歴史的建造物が点在し、まち並みが状態よく残っています。それにもかかわらず、取り壊されていくばかりでした。また、松山と宇和島の中間点という微妙な立地に加えて観光客向けの宿泊施設も少ないため、観光客の滞在時間も短い。日本初の木造復元を実現した大洲城天守や国指定重要文化財の臥龍山荘という歴史的資源があるものの認知度は低く、そのほかの観光資源も生かしきれていない。人口は減少する上に若者の働く場所もなく地域経済の縮小も明白。さまざまな問題に直面していました。


――具体的なきっかけは、4〜5年前。歴史的建造物の所有者による維持・管理に限界が訪れ、その多くが取り壊しの危機に瀕したことだとか。

キタ・マネジメント 村中さん:
若い人が住みたいと思う町をつくりたいと言っている一方で、持続的なまちづくりに不可欠なまち並みが失われていく様子を見過ごす状況は、あまりに矛盾していました。とはいえ、個人での管理は困難ですし、行政が所有することも負担が大きすぎて非現実的。これまでのやり方に限界を感じました。


――そこで抜本的な改革に踏み切った、と。問題視した点は?

キタ・マネジメント 村中さん:
全国各地でまち並みをはじめとした地域資源が残せていない理由は、その価値に気付けず、価値を正当に再評価できず、経済的価値に変換できていないからです。地域経営を根本で支えるのは行政ですから、恥ずかしながらこれまでその努力を怠っていたということになるのでしょう。そこで、地域資源の価値を再評価し、どのように経済的価値を与えられれば地域資源を守れるのか、という課題に本格的に取り組みました。

2-2空家外観(改修前)

地域に点在していた空き家。(提供:一般社団法人キタ・マネジメント)


「経済的価値」を与えるために必要なこと

――日本では「文化財は保存しておくもの」という概念が根強く、文化財を地域のブランディングに生かす、地域の発展のために文化財を活用するという考え方や発想はありません。

キタ・マネジメント 村中さん:
日本では、一般公開することで実物を見られる、程度が限界ではないでしょうか。目にする機会もほぼない、触れられない、写真撮影もNGとなれば、文化財との距離が離れてしまうばかりです。ただ博物館に置いてあるだけでは貴重さや価値は伝わりません。

『大洲城キャッスルステイ』は、大洲城の文化財としての価値と魅力を高めるとともに、大洲城の認知度を向上させることが目的。文化庁の事業「Living History」(生きた歴史体感プログラム)の趣旨である「文化財の付加価値を高め、収益の増加等の好循環を創出するための取組を支援する」に沿った形式で実現しようとするものです。


――日本において「経済的価値」を与えるための条件とは?

キタ・マネジメント 村中さん:
もっとも合理的なのは、民間の資金を入れること、です。全国的に、行政がお金をかけられる対象は限られた一部のものだけというのが日本の常識。ですから、民間の資金が動かなければ経済的価値は生まれにくいと考えます。


――そこで不可欠になってくるのが、地域資源の「価値の評価」である、と。

キタ・マネジメント 村中さん:
どんなに「残したい」「守りたい」という熱意があっても、価値が評価されなければ資金は動きません。「こんなものにお金を投資しても意味がない」と金融機関に判断されればそれまでなのですから。

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宿泊施設として活用されている国登録文化財「加藤家住宅」。(提供:一般社団法人キタ・マネジメント)


「官民連携」成功のカギは「しくみ」づくり

――「経済的価値」を与えて資金を動かす。この取り組みで必要なのは?

キタ・マネジメント 村中さん:
土台となるしくみづくりです。行政と民間の中間組織は絶対的に必要です。公共資産は行政が税金で管理する公平性の高いものであるのに対し、私有財産を生み出す民間企業は真逆の立場にあります。ですから一部の民間企業が公共資産を使って経済を回していくしくみは、日本では以前から非現実的で、ここに公共資産を扱うケースの難しさがあります。民間が評価しても行政が二の足を踏む、というケースは全国的に珍しくないでしょう。

スタンダードになりつつある「官民連携」の上手なやり方は、中間組織の運営。民間のノウハウで公共財をつくり上げていく、という考え方です。


――具体的な運営形態は?

キタ・マネジメント 村中さん:
私が所属する一般社団法人キタ・マネジメントが大洲城を管理し、連携しているバリューマネジメント株式会社とともにキャッスルステイを運営しています。バリューマネジメント株式会社は「日本の文化を紡ぐ」を理念とし、歴史的建造物に特化した事業活動を行なっている企業。文化財保全や町づくりに取り組みたい若者への機会創出にも取り組んでいます。

一般社団法人キタ・マネジメントは、大洲城のほか臥龍山荘や盤泉荘の指定管理者でもあります。公共の資金で設立した公益性の高い法人であり一定の信頼がある組織なので、市民権を得やすいというメリットもあります。


――バリューマネジメント株式会社と提携した経緯は?

キタ・マネジメント 村中さん:
プロジェクト発足後にいろいろと情報収集する中で、まず兵庫県丹波篠山市でのまち並み保存の事例にたどり着きました。篠山の古民家再生プロジェクトをはじめ数々の実績を持つ一般社団法人ノオトの代表理事・金野幸雄氏(当時)のアドバイスを頂戴しつつ、内閣府の地方創生担当者様からご紹介いただいたのが、地域創生部のある伊予銀行。そこからご縁が繋がり、バリューマネジメント社と接点を持つことができました。

連携する金融機関や企業、団体との連携は不可避。それぞれに事情や目的が異なるためケースバイケースですが、理念を共有し同じ方向に向かって歩めるパートナー選びがカギといえそうです。


――皆それぞれに手探り状態。動き出せれば、同志が引き寄せられるのかもしれません。

キタ・マネジメント 村中さん:
地域経済を引っ張ってくれる事業者がいてこそ、地方銀行も動きます。バリューマネジメント株式会社は大洲城の所有者ではありませんが、顧客を持っている事業者ですからマーケティング上はかなり強い。経営も安定し、古民家や城下町を活用した事業のノウハウも実績もある。こうした事業者がいたからこそ、2億円のファンド(民間資金)が古い建物に投じられ、私たちも公的資金を得ることが叶いました。

大洲は観光事業者が参入するのに決して容易い地域ではありませんが、こうした地域資産に価値を見出しリスクを承知で踏み込んでくださったバリューマネージメント社には感謝と敬意しかありません。


――民間・公的資金の両方が得られたことで、地域内に持続的な経済の好循環がつくられていった、と。

キタ・マネジメント 村中さん:
大洲市、バリューマネジメント株式会社、伊予銀行、NOTEが連携協定を結び、歴史的資源を活用した観光まちづくりの推進へと踏み出すことができました。また、数十回にも及ぶ地道な説得活動を経て地域の合意をいただき、城泊事業の実現にも至りました。


――地域からはさまざまな意見もあったのでは?

キタ・マネジメント 村中さん:
城の活用だけにフォーカスすると、感情的な部分も含めてさまざまなご意見がありました。しかし城下町を含めた持続的なまちづくりの観点からすると“お金がない→守れない”の悪循環から抜け出すためには、やはり経済を回す好循環は必要です。

2-3連携協定

「愛媛県大洲市の町家・古民家等の歴史的資源を活用した観光まちづくりにおける連携協定」締結の様子。(提供:一般社団法人キタ・マネジメント)


「保全」と「活用」の共存、ブレない「定義」が不可欠

――「文化財は保存しておくもの」という概念が強く商業的な発想に嫌悪しがち。「保全」と「活用」のバランスを取るのが難しいところかもしれません。

キタ・マネジメント 村中さん:
もちろん「保全」はないがしろにしてはいけませんが、「保全」と「活用」の2つの考え方をセットで持つのが理想ですね。活用することで守れるものがあるのは事実ですから。

シンポジウムなどをすると、客層が二極分化されます。保全がテーマの時は年配者が多く、活用がテーマの場合は若者が多いんですよ。保全と活用はどちらも大切ですが、クリエイティブな発想を基軸とする「活用」でしか、お金は動かない。まちづくりとは人の営みの集合体ですから、お互いが感化されて活性化するのがベストですね。


――「活用」のアイディアが結果的に「保全」に役立つことともあれば、「保全」の知識や発想が、未来に有用な活用につながることも。未来につながる化学反応式の原動力になるかもしれません。

キタ・マネジメント 村中さん:
ただし、明確な「軸」の定義は絶対に必要です。「何のために文化財を活用するのか」というブレない軸がなければなりません。この軸が共有できれば、立場や考え方、目的の違いがあっても、同じ場所を目指せるはずです。地域の方に対しても、この定義を明確にし、きちんと筋道を立ててご説明したことでご理解をいただけました。


無限に広がる「城泊を中心としたまちづくり」の可能性

――「城泊」の先にあるものは?

キタ・マネジメント 村中さん:
城泊事業は、地域経済への波及と将来の人口減少期においても持続可能な文化財保全環境をつくることも目的としています。100万円という高い付加価値を設定しているのも、収益性を高めるため。特別な歴史体験を特別料金で提供し、増えた収益は大洲城に再投資やまちづくりの仕組みを構築する費用に充てられます。

既存の地域コンテンツを組み合わせることで、大洲城という地域で最高の文化財を高付加価値化することができました。今後も、臥龍山荘などほかの文化財に価値を付与していくことで、地域の持つ歴史・文化・自然・風土などの全体の価値を底上げしていきたいですね。まちづくりに無限の可能性を確信しています。

2-4古民家越しの大洲城_変換

観光まちづくりの一環として取り組む古民家ホテル越しに見える大洲城。(提供:一般社団法人キタ・マネジメント)

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