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仏教にとらわれ過ぎない寺泊の挑戦~京都府綾部市 正暦寺

こんにちは。城泊寺泊専門家派遣事業事務局です。
今回は寺泊に取り組むお寺として、京都府綾部市の正暦寺を紹介いたします。正暦寺は2016年ごろから寺泊に取り組んでおり、昨年度の専門家派遣事業にエントリー。専門家からのアドバイスを受け、新たな取り組みを始めています。そして今年度の観光庁の補助金の支援も受け、日々進化を遂げています。今回はそんな正暦寺の取り組みを紹介し、寺泊の“いま”をお伝えします。

きっかけは「襖の修理」

京都府綾部市にある、那智山正暦寺では、築約100年の純和室を一棟貸し、竹林座禅や朝のお勤めなどの体験付きで1日1組の寺泊を提供しています。住職の玉川弘信さんが寺泊を始めたきっかけは、お寺を大切にしたいという想いからでした。
「お寺には『文化財』には認定されなくとも、守るべき歴史的なものが多くあります。例えば、当院の客殿の襖は100年前に日本画家によって描かれたもの。修繕には片面だけで200万円かかります。将来的に檀家さんのご負担にしないためにも、お寺の収入を創出したい思いがありました」。
正暦寺の檀家は現在200程度。しかし今後も檀家からの支援だけでお寺の経営を続けるのは難しく、特にお寺に残る数々の宝を守るためには、新しい取り組みをする必要があり、玉川住職は客殿を宿泊施設をして活用することを思いつきました。

客室
客室にある襖絵(正暦寺ホームページより)

たまたま客殿は旅館業の営業許可を取っており、昔から合宿などに使っていたとのこと。また玉川住職はお寺の活動として、泊まりに来た方にお寺での時間を人生のプラスにしてもらいたいという想いがあり、大人数の合宿ではなく個人や家族など少人数向けの宿としてオープンしました。

仏教に捉われすぎない食事や体験

正暦寺の特徴は、何と言っても住職自ら腕を振るう食事です。お寺の食事というと精進料理をイメージしますが、正暦寺では何と地元で採れるシャモを一羽丸ごと使った豪華な懐石料理。
「『精進料理』とは、殺生を避けた料理といわれますが、植物も生きもの。限りある命を得て、私たちは生きられます。そのありがたみを感じるために、お料理を出しています」と玉川住職。
若いころは料理人を目指していたという玉川住職。食へのこだわりも強く、メニューもみそ漬けなどの和風の味付けもあれば、バジルソースなどの洋風のものまで様々です。「自分自身食べることが大好きなので、その影響ですね(笑)」と玉川住職は語ります。

正暦寺のシャモを使った懐石料理(提供 正暦寺)

一般的なイメージにとらわれないスタンスは、他の体験にも表れています。法衣の着用や法楽器の使用など、宗教的には修業を積んでいない人が行うことがはばかられることでも、住職に教わりながら体験可能です。
法衣も梵音具(楽器)も、人が幸せに生きるためのツール。仏教そのものにご利益があるのではなくて、仏教をきっかけ人が幸せに生きることが出来ることがご利益。お寺を訪れた方にとって何か気づきになれば」と、住職は話します。

専門家派遣を受けて新たなスタートを切る

そんな玉川住職も悩みがありました。それは集客。中々お客さんに知ってもらう機会が無かったのです。
そうした悩みを持つ玉川住職は、昨年度の観光庁「城泊・寺泊専門家派遣事業」にエントリー。専門家による支援を受けることになりました。
専門家からは、「コンテンツや宿坊運営のホスピタリティなどすでにかなり高いレベルにあり、ハード面も十分に整っている」という評価。一方で「受け入れ対応を住職が全て行っているため、お寺の繁忙期や法事など急な対応の時に受け入れが出来なくなり、安定した収入に繋がらない」という指摘がありました。そこで課題を①高価格での販売と②滞在日数や1組当たりの宿泊人数を上げることでのコストダウンの2点に絞り、販売価格を下げずにいかに顧客獲得ができるか、細かい収支計画をつくるアドバイスを受けました。
また情報発信方法もリニューアル。今まではお寺のホームページからの予約だけの対応から、宿坊専用のホームページを開設しOTAを活用した情報発信に切り替えました。また宿坊の魅力が伝わるよう新しく写真も準備し、「住職が専属コンシェルジュとなり、お客様の目的や心の状態に合わせてオーダーメイドで過ごし方をご提案」する高級オーベルジュというコンセプトで販売を開始しました。

ラグジュアリーな“寺泊オーベルジュ”を目指して

「観光庁様の支援のおかげで情報発信の重要性や収支計画の見直し(単価アップ)など多くの気づきを得ることが出来ました」と住職は話します。
また観光庁の支援を受けたことがきっかけで、昨年12月には斉藤国交大臣が取り組みを視察。住職は「斉藤大臣と和田長官が来て下さったことで地域の反応が少し変わったのを感じます。綾部市さんとお話するときは特に感じます(笑)」と振り返ります。
今後の展開について、住職は「まだ走り始めたばかりですが、いずれ富裕層などより単価の高い客層を取り込める宿坊にしていきたい」と話します。また長期滞在や、檀家さんと宿泊者が交流する場づくりも視野に、ブラッシュアップを続けていくそうです。

観光庁でも上質な宿泊体験コンテンツの検討が本格的に進む中、正暦寺の挑戦は注目の事例になりそうです。事務局としても、今後もフォローを続けていきたいと思います。


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